調べものをしていて拾いものをするのはままあることですが
今日はこういうネタをみつけました。
角刈りのルーツについての記述です。
「男女美容編 : 実用問答」という明治終わり頃の本からです。
これによると明治二十二年ある床屋さんを訪れた青年紳士が、フランスの髪型『ポンペドー』をその床屋の主に教えたのが始まりとか。
以下、抄出原文ママ。
『問:當時勞働社會に流行して居る角刈は、元は紳士達が盛んに刈ったものと聞いて居升がほんとうですか、
答:其れには篠床主人から聞いた話を其の儘答と致さう、左樣です。あれは確か明治二十二年の春でしたらう私しへ一人の青年紳士が飄然として遣つて來た、私は何心なく出てゝ其客を迎へた、其紳士は私に向つて此頃佛蘭西に行はれてゐるポンペドーといふ刈方を知つて居るかとのことですが、恥しいことではあるが私はポンペドーのポの字も知らないから、其の旨有のまゝに答へたら、青年紳士は左樣か、それではまだ日本へ行はれて居らぬと見へる、どふだ一つ流行らして見てはと、一々その格好や、鬢を逆さに立てゝ刈る具合を教へて呉れたから、其言葉通り遣って見ると、大層格好がよく出来たので、紳士も教へ甲斐あると云ふて喜んで歸へつたが、それが段々今日の流行を來たした基です。
一體此の角刈は、元は佛蘭西の軍人が始めたもので、彼方では軍人を貴む處からして殊に若い人たちは我も\/と眞似した一時は非常な流行であつたさうです、併し佛蘭西人の毛は、我々日本人に比ぶると、毛が柔らかいので帽子を冠(か)ふると毛が皆寐(ね)て、折角の角刈も臺なしになつて仕舞うから小さなブラシをポケツトに入れ置き人の處へ行くと玄關でブラシを頭にかけて倒(さかさ)まになで上げたとのことです、それが前に申した樣の次第で、日本に流行つて來たが、日本人の毛は御承知の通り硬いから、佛蘭西人の樣な手數もなし、それに新を好は人情の常おまけに上手に刈るとなか\/粋な頭髪でしたから、青年紳士は争ふて間似ねましたが、何時の時にか勞働社會の専有物となつて、上流には余り見受けない樣になつた、流行と云ふものは妙なもので、今日では角刈にして居ないと、労働者が若い者仲間に幅が利かないと云ふ樣な勢になつたのです、尤も以前上流社會に流行つたのは、眞角でなく少々角は丸めたものでした。』
「男女美容編 : 実用問答」衛生新報社編輯局 編/丸山舎書籍部 明治四十年
原文: http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/848954/126
『ポンペドー』って、『ポンパドゥール』のことですよね多分。ポンパドゥール婦人の肖像画をご想像いただくとわかりやすいと思いますが、近年日本でも(主に女性が)前髪を立てる髪型のことをそう呼ぶようです。個人的にはあん…まり好きではないけど…。角刈りのルーツなんだ。
Pompadour hairstyle - Google 検索
Pompadour (hairstyle) - Wikipedia, the free encyclopedia
おお、ポンパドゥールは、日本ではリーゼントと呼ばれ、娯楽作品ではしばしばヤクザや暴走族やヤンキーに典型的な髪型として描かれる、と紹介されている。
『In modern Japanese popular culture, the pompadour is a stereotypical hairstyle often worn by gang members, thugs, members of the yakuza and its junior counterpart bōsōzoku, and other similar groups such as the yankii(high-school hoodlums). In Japan the style is known as the "Regent" hairstyle, and is oftencaricatured in various forms of entertainment media such as anime, manga, television, and music videos.』
リーゼント - Wikipedia
『(リーゼントの特徴は)日本ではしばしば前髪を高くしたポンパドールを指すものと誤解されている。これは米国では略してポンプ (POMP)とも呼ばれ、英国ではクイッフ(英:quiff)と呼ばれる。』
ポンパドール=リーゼント(和製英語)かあ。
たぶん、明治の角刈りはソフトなリーゼントみたいな感じだったんだろうけど、そこから角刈りの形になってった経緯は、髪質の違い?だったのかな?
なお、プレスリーの髪型は『Pompadour & Ducktail』ともいうみたい。前髪を立てるのがポンパドゥール、後頭部がダックテール
Pompadour Ducktail - Google 検索 https://www.google.co.jp/search?espv=210&es_sm=122&tbm=isch&source=univ&sa=X&ei=Lig5U-u_IISukgXZvICQAg&ved=0CDAQsAQ&biw=1746&bih=903&q=Pompadour+Ducktail
今度から角刈りの人を見たら心のなかで『ポンペドーさんだ…』と思うことにしよう。
蛇足
うーん、『リーゼント』の名称がリージェンシー・ストリートからって、偶々なんだろだけど、あの放蕩者の摂政王太子(Prince regent 英国では大体ジョージ4世を指す)の髪型、みたいなことになっちゃってて面白い。
海外ものヒストリカルロマンスでは、英国摂政時代を舞台とした『リージェンシー』が一ジャンルを確立しています。そもそも、日本の時代劇が江戸ばっかりだなって思う程度には中~近世英国ものが多いのですが、その中でも人気のある時代のようで。
個人的には、サブリナ・ジェフリーズ作で摂政王太子ご本人もご出演になる『背徳の貴公子』三部作(MIRA文庫)、登場人物が共通してる『修養学校シリーズ』(扶桑社ロマンス)がおすすめ。風俗描写もばっちりだし、政治社会情勢をストーリーに落とし込むのがすごく巧みな方です。修養学校シリーズは巻数も出ていたし、他の作家さんも参加したオムニバス短編集も出てて、海外でも人気があったんだろうな~。