前回の続き。
中世に入り、宗派もぐっと多様になります。
全部は追い切れないので、ここは、変形袈裟のバラエティーに絞って見ていくことにします。
袈裟の変遷その6。
祇園精舎の鐘の声ェ~~♪
というわけで盛者必衰、武士の世となりまして、法衣・袈裟にも新しい刺激がもたらされます。
禅宗がやってくる!ヤアヤアヤア!
この時、教えと共にもたらされたのが
(前褊)で触れた、直綴です。
直綴は僧侶に広く用いられるようになっただけでなく、
色ものの生地で仕立てた直綴「道服」が、半俗の茶人や連歌師などなどにも広く着られ
さらに公家・武家内々の上衣としても用いられるようになり
(時代は下りますが、腰から下に襞のない「小道服」もつくられました)
「羽織」のもとになったとも云われます。
ちなみに禅宗の直綴は、黒くて袖が深くて、
禅僧がその袖に風をはらんで早足で歩み去る大烏の如き様子は、
煩悩の汚泥にまみれた衆生の横っ面を、颯爽たる笑みでしたたかひっぱたいて正道に立ち戻らせる、
そんな恐るべき済度力をそなえているように思えます。フー。
いや、その位の含みはあると思うんだ、普通に考えて日常動作にあの袖はご不便だろうなあと思うもの。
また、五条袈裟がさらに小型化されて、二本の紐(サオ)で首から懸ける
「掛絡(から)」または「絡子(らくす)」と呼ばれる小さな五条袈裟がつくられました。
サオの一本には、絡子環(らくすかん)という留め具がつきます。
(宗派によってはつかない)
サオは、首の後ろで「マネキ」という長方形の布でまとめられています。
旅姿の禅僧も、風呂敷などでまとめた荷物の下にちゃんと絡子を懸けています。
しかし、これ…「まとめた」「包んだ」って、一言で言えるようなものじゃないですよね…。
また、「大掛絡(おおがら)」と呼ばれる、大振りの絡子があり、、
御存知虚無僧(普化宗の行脚僧)が横懸けにしています。
首から提げた偈箱(明暗と書いてある木箱)は、尺八の楽譜を入れる物。
お布施入れにもなったそう。
小野塚五条は、真義真言宗豊山派のみで用いられる小型の五条袈裟で、
つくられたのは大正時代だそうですが、威儀細とも呼ばれ、確かに紐が細くて瀟洒な印象です。
(絵はちょっと威儀が長すぎた…)
※茶坊主はたまたまスケブから発掘してきたおまけです
さらにおまけ。
琵琶といえば蝉丸さんですが
百人一首の蝉丸は ときどき帽子(もうす)をかぶってる。
時代的に云えばこういう形のモノはなかったはずなので
お能の「蝉丸」からのイメージなのかも知れません。
他に立帽子、観音帽子などいろいろ並べてみましたが
なんだか、上杉謙信の図像ってまちまちで、こういう、法体が被る帽子(頭巾)みんな被っている気がします。
中に変なの混じってるけど気にしないで下さいw
その7。
袈裟を細く畳んで巻いたり懸けたりの巻。
本来なら、こちらを(6)にしたほうが、時代的にみたらよかったのかも知れませんが。
遊行僧が五条袈裟を細く折って畳み、襷掛けにしていました。
おそらくこのような着用法から生まれたのが、畳んで首に懸ける方式の「折五条」、「輪袈裟」であり、
それらをさらに複雑化したのが「結袈裟」だと思われます。
(結袈裟は九条袈裟を畳んだ物だそうですが)
結袈裟は修験者が懸けるもので、胸へ垂らす部分と、背へ垂らす部分と分かれています。
前後に、特徴的な球状の総が付きます。これは「梵天」とよび、この袈裟を「梵天袈裟」といいます。
この梵天は、水干などに付く菊綴の変形だといいます。
それにしても見事なポンポン!梵天とはナイスネーミング!
さらにこの梵天を金飾に代えたのが「磨紫金(ましこん)袈裟」、
(※紫磨金しまごんは、紫色を帯びた最良の黄金のこと)
胸に垂れる部分の組紐を縮小版の修多羅に代えた「修多羅袈裟」もあります。
結袈裟は背の緒を帯に固定するようです。
修験者の衣は、「篠懸衣(鈴懸衣、すずかけごろも)」、袴は共布。形は直垂によく似ていますね。
頭上には頭巾(ときん)、手甲に脚絆、後腰に獣皮の引敷(ひっしき)をつけ、護摩刀を佩き、
お山を走るときにザイルとして使う「貝の緒」を組み結びにしたものを両腰から垂らします。
なんとなく並べてみたくて僧兵もかきました。
******************
あー楽しかった。後半ダレましたが。
ここまでお付き合い頂いた方(もしいらっしゃれば)有り難う御座いました。
しかし、袈裟、法衣と一部を挙げただけでもこれだけ多様で、改めて驚かされます。
絵だけでも御覧頂いて、法衣・袈裟の多様性を感じて頂けたら嬉しいです。
あ、
勿論小型改良袈裟だけでなく
従来の袈裟も大事に扱われていました。
師から弟子へ相伝される「銘物」も遺されていますし!
全部ではないにせよ、各時代に生まれた袈裟が、実用品として使われているのも本当にすごい。
よく考えたら、指貫袴なんて、直衣や狩衣とセットで見るよりも、法衣セットで見てる方が多いのかも?
装束好きにもやっぱり法衣っておいしいですね~~ほくほく。
実はまだ入手できてない資料などありますので、いつか再チャレンジできたらなと思ってます。
記事をちょこちょこ修正加筆っていう方が現実的だけど。
おまけ。
梵天のもとになった、菊綴です。直垂と童水干で見てみましょう。
ほつれやすい部分の補強の為に結んだ紐の裾をほどいて、花のように開いたのが菊綴です。
「くくりとじ」の訛、という説も。
のちにはただの飾りになっても、少なくとも菊綴がついた衣は、当初は消耗の激しい日常着だったことを窺えます。
童水干は平安末期ごろから華美な童子服という向きが出てきて
生地や、菊綴、袖括も大分カラフルになりました。
紐結びのもの、皮紐で結ぶものもありますが、皮紐のものは直垂の亜種である「素襖」に使われました。
……と、袈裟関係ないおまけで締めてすみませんw
◆(前編)天竺~唐まで はこちら。
◆(中編)奈良~平安時代まで はこちら。
◆[袈裟・法衣の目次]はこちら。
「つづきを読む」に、参考文献。
中世に入り、宗派もぐっと多様になります。
全部は追い切れないので、ここは、変形袈裟のバラエティーに絞って見ていくことにします。
袈裟の変遷その6。
祇園精舎の鐘の声ェ~~♪
というわけで盛者必衰、武士の世となりまして、法衣・袈裟にも新しい刺激がもたらされます。
禅宗がやってくる!ヤアヤアヤア!
この時、教えと共にもたらされたのが
(前褊)で触れた、直綴です。
直綴は僧侶に広く用いられるようになっただけでなく、
色ものの生地で仕立てた直綴「道服」が、半俗の茶人や連歌師などなどにも広く着られ
さらに公家・武家内々の上衣としても用いられるようになり
(時代は下りますが、腰から下に襞のない「小道服」もつくられました)
「羽織」のもとになったとも云われます。
ちなみに禅宗の直綴は、黒くて袖が深くて、
禅僧がその袖に風をはらんで早足で歩み去る大烏の如き様子は、
煩悩の汚泥にまみれた衆生の横っ面を、颯爽たる笑みでしたたかひっぱたいて正道に立ち戻らせる、
そんな恐るべき済度力をそなえているように思えます。フー。
いや、その位の含みはあると思うんだ、普通に考えて日常動作にあの袖はご不便だろうなあと思うもの。
また、五条袈裟がさらに小型化されて、二本の紐(サオ)で首から懸ける
「掛絡(から)」または「絡子(らくす)」と呼ばれる小さな五条袈裟がつくられました。
サオの一本には、絡子環(らくすかん)という留め具がつきます。
(宗派によってはつかない)
サオは、首の後ろで「マネキ」という長方形の布でまとめられています。
旅姿の禅僧も、風呂敷などでまとめた荷物の下にちゃんと絡子を懸けています。
しかし、これ…「まとめた」「包んだ」って、一言で言えるようなものじゃないですよね…。
また、「大掛絡(おおがら)」と呼ばれる、大振りの絡子があり、、
御存知虚無僧(普化宗の行脚僧)が横懸けにしています。
首から提げた偈箱(明暗と書いてある木箱)は、尺八の楽譜を入れる物。
お布施入れにもなったそう。
小野塚五条は、真義真言宗豊山派のみで用いられる小型の五条袈裟で、
つくられたのは大正時代だそうですが、威儀細とも呼ばれ、確かに紐が細くて瀟洒な印象です。
(絵はちょっと威儀が長すぎた…)
※茶坊主はたまたまスケブから発掘してきたおまけです
さらにおまけ。
琵琶といえば蝉丸さんですが
百人一首の蝉丸は ときどき帽子(もうす)をかぶってる。
時代的に云えばこういう形のモノはなかったはずなので
お能の「蝉丸」からのイメージなのかも知れません。
他に立帽子、観音帽子などいろいろ並べてみましたが
なんだか、上杉謙信の図像ってまちまちで、こういう、法体が被る帽子(頭巾)みんな被っている気がします。
中に変なの混じってるけど気にしないで下さいw
その7。
袈裟を細く畳んで巻いたり懸けたりの巻。
本来なら、こちらを(6)にしたほうが、時代的にみたらよかったのかも知れませんが。
遊行僧が五条袈裟を細く折って畳み、襷掛けにしていました。
おそらくこのような着用法から生まれたのが、畳んで首に懸ける方式の「折五条」、「輪袈裟」であり、
それらをさらに複雑化したのが「結袈裟」だと思われます。
(結袈裟は九条袈裟を畳んだ物だそうですが)
結袈裟は修験者が懸けるもので、胸へ垂らす部分と、背へ垂らす部分と分かれています。
前後に、特徴的な球状の総が付きます。これは「梵天」とよび、この袈裟を「梵天袈裟」といいます。
この梵天は、水干などに付く菊綴の変形だといいます。
それにしても見事なポンポン!梵天とはナイスネーミング!
さらにこの梵天を金飾に代えたのが「磨紫金(ましこん)袈裟」、
(※紫磨金しまごんは、紫色を帯びた最良の黄金のこと)
胸に垂れる部分の組紐を縮小版の修多羅に代えた「修多羅袈裟」もあります。
結袈裟は背の緒を帯に固定するようです。
修験者の衣は、「篠懸衣(鈴懸衣、すずかけごろも)」、袴は共布。形は直垂によく似ていますね。
頭上には頭巾(ときん)、手甲に脚絆、後腰に獣皮の引敷(ひっしき)をつけ、護摩刀を佩き、
お山を走るときにザイルとして使う「貝の緒」を組み結びにしたものを両腰から垂らします。
なんとなく並べてみたくて僧兵もかきました。
******************
あー楽しかった。後半ダレましたが。
ここまでお付き合い頂いた方(もしいらっしゃれば)有り難う御座いました。
しかし、袈裟、法衣と一部を挙げただけでもこれだけ多様で、改めて驚かされます。
絵だけでも御覧頂いて、法衣・袈裟の多様性を感じて頂けたら嬉しいです。
あ、
勿論小型改良袈裟だけでなく
従来の袈裟も大事に扱われていました。
師から弟子へ相伝される「銘物」も遺されていますし!
全部ではないにせよ、各時代に生まれた袈裟が、実用品として使われているのも本当にすごい。
よく考えたら、指貫袴なんて、直衣や狩衣とセットで見るよりも、法衣セットで見てる方が多いのかも?
装束好きにもやっぱり法衣っておいしいですね~~ほくほく。
実はまだ入手できてない資料などありますので、いつか再チャレンジできたらなと思ってます。
記事をちょこちょこ修正加筆っていう方が現実的だけど。
おまけ。
梵天のもとになった、菊綴です。直垂と童水干で見てみましょう。
ほつれやすい部分の補強の為に結んだ紐の裾をほどいて、花のように開いたのが菊綴です。
「くくりとじ」の訛、という説も。
のちにはただの飾りになっても、少なくとも菊綴がついた衣は、当初は消耗の激しい日常着だったことを窺えます。
童水干は平安末期ごろから華美な童子服という向きが出てきて
生地や、菊綴、袖括も大分カラフルになりました。
紐結びのもの、皮紐で結ぶものもありますが、皮紐のものは直垂の亜種である「素襖」に使われました。
……と、袈裟関係ないおまけで締めてすみませんw
◆(前編)天竺~唐まで はこちら。
◆(中編)奈良~平安時代まで はこちら。
◆[袈裟・法衣の目次]はこちら。
「つづきを読む」に、参考文献。
■「原色日本服飾史」(井筒雅風/光琳舎出版)
以前、井筒法衣店の店頭であれこれご質問させて頂いたとき
非売品の法衣仏具カタログを三冊も頂戴してしまいました。
御対応くださった店員の方、有り難う御座いました。
今回、資料として活用させて頂きました。
■「有職故実図典-服装と故実-」
■「有職故実大事典」
(ともに、鈴木敬三(著・監修/吉川弘文館)
大事典には法衣関係の執筆者も入っていて百人力です
■「仏像の事典」(熊田由美子監修/成美堂出版)
仏様がみずから装束の着方を実演してくださるという図解がすごく楽しい。
仏頂面なのに小指立ってるとか…所作が細かいです。
変遷(1)(2)はこの本を主に参考にしています。
■「素晴らしい装束の世界-いまに生きる千年のファッション-」(八条忠基/誠文堂新光社)
お世話になってます。法衣はスルーだけど神職方面は強い。
■「袈裟のはなし」(久馬慧忠/宝蔵館)
かなり前に買った本だけど、読み返すと昔解らなかったことがするする頭に入ってきて嬉しかったです。
(本来は基礎知識用の文献ですが、なんだか順番が逆になり。)
■「新校群書類従 第六巻装束部(二)」(内外株式會社)所収『法中装束抄』『法体装束抄』
古書店で買ったもので判が大きいけれど、巻頭に解題がついてるのがありがたい。
■「日本の色辞典」(吉岡幸雄/紫紅社)
染織家の著作で、見出し図版の殆どが実際に染めた布の写真、染料名つき。
装束の色を見るには好適。巻末の資料もかなり細かい。
■「図解はじめての飾り結び2」(川島御園/水曜社)
修多羅の結び方が載っている貴重な本。
■「平安文様素材CD-ROM」(八條忠基/マール社)
■「西陣文様事典」(いとう喜一/河出書房新社)
袈裟などの地紋に。
■「高野山 密教曼陀羅 【空海の世界】」(櫻井恵武撮影/コスミックインターナショナル)
さすがにスケールが違う。金襴のバキバキ袈裟が見放題。
■「禅修行」(富山治夫撮影/曹洞宗宗務庁)
楽しかった福井旅のおみやげ。
■「興福寺」国宝館図録
法相曼陀羅はじめ、高僧の袈裟の参考に。
webサイト
■「空飛ぶ水冠」様
検索でこちらへいらっしゃった方は先に御覧になっている確率が高いと思います。
■「如何正确穿着佛袈裟 中衣 僧祇支」(仏袈裟、中衣、僧祇支の正しい着装法)
中国版wiki?内の記事。
前編(3)で参考にさせて頂きました。
以前、井筒法衣店の店頭であれこれご質問させて頂いたとき
非売品の法衣仏具カタログを三冊も頂戴してしまいました。
御対応くださった店員の方、有り難う御座いました。
今回、資料として活用させて頂きました。
■「有職故実図典-服装と故実-」
■「有職故実大事典」
(ともに、鈴木敬三(著・監修/吉川弘文館)
大事典には法衣関係の執筆者も入っていて百人力です
■「仏像の事典」(熊田由美子監修/成美堂出版)
仏様がみずから装束の着方を実演してくださるという図解がすごく楽しい。
仏頂面なのに小指立ってるとか…所作が細かいです。
変遷(1)(2)はこの本を主に参考にしています。
■「素晴らしい装束の世界-いまに生きる千年のファッション-」(八条忠基/誠文堂新光社)
お世話になってます。法衣はスルーだけど神職方面は強い。
■「袈裟のはなし」(久馬慧忠/宝蔵館)
かなり前に買った本だけど、読み返すと昔解らなかったことがするする頭に入ってきて嬉しかったです。
(本来は基礎知識用の文献ですが、なんだか順番が逆になり。)
■「新校群書類従 第六巻装束部(二)」(内外株式會社)所収『法中装束抄』『法体装束抄』
古書店で買ったもので判が大きいけれど、巻頭に解題がついてるのがありがたい。
■「日本の色辞典」(吉岡幸雄/紫紅社)
染織家の著作で、見出し図版の殆どが実際に染めた布の写真、染料名つき。
装束の色を見るには好適。巻末の資料もかなり細かい。
■「図解はじめての飾り結び2」(川島御園/水曜社)
修多羅の結び方が載っている貴重な本。
■「平安文様素材CD-ROM」(八條忠基/マール社)
■「西陣文様事典」(いとう喜一/河出書房新社)
袈裟などの地紋に。
■「高野山 密教曼陀羅 【空海の世界】」(櫻井恵武撮影/コスミックインターナショナル)
さすがにスケールが違う。金襴のバキバキ袈裟が見放題。
■「禅修行」(富山治夫撮影/曹洞宗宗務庁)
楽しかった福井旅のおみやげ。
■「興福寺」国宝館図録
法相曼陀羅はじめ、高僧の袈裟の参考に。
webサイト
■「空飛ぶ水冠」様
検索でこちらへいらっしゃった方は先に御覧になっている確率が高いと思います。
■「如何正确穿着佛袈裟 中衣 僧祇支」(仏袈裟、中衣、僧祇支の正しい着装法)
中国版wiki?内の記事。
前編(3)で参考にさせて頂きました。
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